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恋敵人形
天現ノ夢:霄さまより
「それ、貸して」
ぼくは彼女が抱き締めている人形を指差した。
大事そうに、大事そうに彼女の腕に抱えられているのは綺麗なフリルが施されたドレスを纏った人形。
おとこのぼくがそれを借りたがるのを、彼女は不思議に思ったのか首を傾げた。
「いやよ、これ、もらったばっかりなのに」
知っている。
昨日誕生日を迎えた彼女が、プレゼントとしてもらったんだって。
いつも彼女と遊んでる公園に、その人形を抱えてやってきて。
そしてぼくに、その人形を誇らしげに見せてくれたんだ。
ぼくも最初は、とても綺麗だと思った。
ドレスは物語に出てくるお姫様みたいだったし、風に舞う髪もきらきら光っていた。
彼女はとても気に入ってるみたいで、ぼくも最初はその嬉しそうな顔を見ていると胸がぽかぽかしてたんだ。
でも、いつもは泥んこ遊びで一緒に遊ぼうとする彼女は、今日はその人形に構ってばかり。
ぼくをほったらかしにして、ずっと人形と遊んでいる。
かなしいのかくやしいのか、よくわからない気持ちが胸の中でグルグルしている。
そして言ったんだ、泥のついた手で、人形を指して。
彼女は人形が汚れるのを嫌って、ぼくにそれを渡してはくれなかった。
わかっていた答えだけど、なにかが目の奥から溢れてきそうになって。
それを必死に我慢した。
ぼくよりそんな人形と遊ぶ方が楽しいんだ。
そう思うと、その綺麗な人形がなぜかすごく嫌な物に見えてきて。
ぼくをかまってくれない彼女すら嫌いになってきて。
なのにどうして、彼女と一緒に遊ぶのはぼくじゃなきゃ嫌だと思うのか。
それがやきもちだと気づくのは、もう少し先の話だった。
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